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警察学校日記

 1日で起きたことを複数日にまたがって、日記にしています。そのため、時間軸がずれています。

退職勧奨4

7/12(月) 進退の予感

 課外に俺は教官室の前に立っていた。
 これから、教官室に入り、何を言われるかと思うと敵前逃亡したい気持ちになった。それでも何となく、学校生活で一番のハードルになるような気がした。
 覚悟を決めて入った。
 「入ります」
 教官の前へと足を進めた。

 「教官お願いします。藤原巡査は報告があり参りました」
 「報告ってなんだよ?」
 「反省会議での自分の発言についてです」
 「ここじゃあれだから、場所変えるぞ」

 会議室へと移った俺は、発言の趣旨について説明した。
 しかし、こちらはすでに教官の説明に納得しているのだから、今更何かを言うことも無い。ただ、自分が深く考えずに発言してしまった理由を述べる猶予は与えられなかった。

7/13(火) お前は向いてない

 「どういうつもりで発言したんだよ。自分のやったことも認めないで、よく言えるよな。今まで何回お前にこういうことで言ってきたんだよ。全く変わってねぇじゃねぇか。おい、どうなんだよ。変える気あんのか?変える無いんなら決めろよ。気持ちのない奴は同期に迷惑掛けるだけ」

 今まで何回と言われても、正確に覚えてないから、教官の言葉が真実に思えてくる。そうすると、自分はダメなやつなんだなと思ってしまう。そして、答えは教官の質問の前から決まっている。それは同期ほとんどがそうだと思う。
 その答えは、
 「はい、変える気持ちはあります」

 さらに俺たちの間では、この先の問答についても、よくよく理解していた。

 「変わってねーじゃねぇかよ。もう変わんねーんだろ?」
 「すいません。変えていきます」
 「変わんねーから、言ってんだよ」
 「すいません。変えます」
 「もう聞き飽きたんだよ。口だけのパフォーマンスによぉ」
 「すいません。少しずつでも変えていきます」
 「だからよ~………」

 想定通りの問答だった。

7/14(水) 優しさは怖さと裏腹

 教官は急に落ち着いて、優しく語りかけてきた。

 「なぁ、お前は良い大学も出てて、頭も良い。だから、もっと良い仕事があると思うんだよ。このまま警察にいてももったいない。ここより、もっと活躍できる場所がある。考えてみたらどうだ?」

 めちゃくちゃ怒られていたのに、急に優しくなり相談口調になった教官の言葉に、俺は見捨てられたんだなと思い…急に涙が止まらなくなってしまった。
 それでも、必死に涙を流さないようにしていたが、抑えようとすればするほど涙は溢れ、頬を伝わり、同時に何故か自分に対する悔しい気持ちでいっぱいだった。

 泣いているせいか、上手く声に出すことが出来なくなっていた。
 「っつ、つ、つづ、け、……たいで、っです」
 「続けたいっていう気持ちは分かるが、このまま辛い思いをしながら仕事をするのと楽しく活躍しながら仕事するのは、普通に考えたら後者だろ?」
 頷いた。
 「そうだろ。俺はお前の将来のことを考えて言っている。決して辞めて欲しいからとかない。その状態じゃすぐに考えられないだろうから、自習時間中によく考えとけ」

 退職勧奨だった。

 続けざまに教官は釘をさすかのように続けた。
 「もし、警察を続けたいと思うなら、今のお前を変えろ。でなければ辞めた方がいい」
 「おう、もう行け」

7/15(木) 俺の進退

 俺は自習時間になるまで、個室で落ち込んでいた。
 そして、考えていた。
 実は自分でも、警察でやっていける自信がなかった。
 昇任試験については警視までいけるという強い自信があったが、上司や仕事に関する報連相、警察独自の人間関係といいつつ、自分と合わない点が結構あった。だから、教官の指摘がすごく胸に突き刺さった。
 だけど、警察学校で退職、これだけは嫌だった。警察学校が辛くて辞めたんだなというレッテルだけは嫌だったし、何よりも中途半端だと思った。続けてみれば変わることもあるだろうと思った。迷った挙句、携帯音楽機器でプロジェクトXを流した。辛いときはいつもこれを聞いていた。そして、ここで諦めたら自分の人生がダメになるような気がした。今この辛い時期を乗り越えよう。
 続ける覚悟を決めた。

7/16(金) お前の好きにしろ

 自習時間になって、隣の席の毛利が、からかい口調で話しかけてきた。
 「辞めるん?」
 「ぃや…辞めないけど」
 からかい口調にな表情に笑い顔が足され、
 「マジかよ。隣が静かになると思ったんだけどなー」
 実は嬉しかった。普段からこういう奴だから、毛利なりの慰めだ。
 「はぁ?うるせーよ」

 赤井は鈍感なような第一印象なのに、こういうときには核心をつつかれる。
 「お前、こういうことに弱いよな。それで一人、抱えるよな。でも、俺たちだってミスしたり失敗するときもあるんだから、辛いときは俺たちに相談しろよ」
 「うん」
 こういうときの赤井の言葉に、俺はドラマの主人公になったかのような感動をみた。

 自習時間残り30分となったとき、急に教官が談話室で反省会の続きをやり出すと寮にやってきた。反省会では隣で寝ている奴を起こすという結論になった。
 22時となり夜点呼のために反省会が終了となると、教官は何も言わず談話室を出て、出口へと向かった。

 俺は廊下を歩いていた教官を後ろから呼び止め、
 「教官、自分は続けたいです」
と言った。

 「お前の好きにしろ」

 とても簡素な返答だったが、すっきりとした気持ちいい言葉に感じられた。
 つまり、続けろという意味だった。
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